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雲仙・普賢岳の麓にある深江町。季節により様々な幸をもたらす有明海に面した漁場で獲れる魚介は、特有の潮の速さと干満差により、身が引き締まって美味しいことで知られています。その海で育つ「有明海の活車えび」は、姿の美しさやプリプリとした食感が人気で、贈答用としても好まれています。
「有明海の活車えび」の養殖の歴史は35年前にさかのぼります。2代目・深江町漁業協同組合長・濱本藤壽さんが、地元の漁師や漁協に安定的な利益をもたらす産業としてスタートさせたのが最初でした。ところが準備を進めていた翌年の平成2年に普賢岳が198年ぶりに噴火活動を再開。平成3年の火砕流・土石流では多くの地域が被災し、深江町の港もまた甚大な被害を受けました。しかし養殖に携わる人々は希望を捨てず、その後8年の歳月をかけて施設を整備し、平成10年に復興。今では年間約15トンの車えびを出荷するに至っています。
養殖場は陸に隣接する擂鉢状のものが大小2つあります。毎年6〜7月頃、大きい方(3.3万u)に約95万匹、小さい方(6.6千u)に約20万匹の稚えびを放ち、そこから半年ほどかけて育て、11月〜2月末頃までに出荷します。鹿児島県隼人町から仕入れる稚えびは0.1ミリにも満たない大きさですが、脱皮を繰り返し、出荷時には15〜20センチに成長します。魚粉・アミノ酸・ビタミンなどを配合した飼料のみで育てるので栄養価が高く、一定の品質の車えびになります。餌は時期により大きさや量を変化させますが、出荷直前は約300キロを1日1度、船で養殖場を旋回しながらまんべんなく撒いていきます。
「色が美しく、プリプリと身が引き締まった食感が良いとお褒めいただき、結婚式やお正月などおめでたい席で用いたいという顧客の方々のオーダーが全国から寄せられます」と現・深江町漁業協同組合長の吉田幸一郎さんはにこやかに話します。
お話を伺った組合長の吉田幸一郎さん。天然車えび漁の現役の漁師でもある
現在「有明海の活車えび」の養殖に専属で就いているのは主に4名。内3名は20代です。愛知から移住した中村竜綺さんは4年目、神奈川からIターンした大山和輝さんは2年目、岩永知也さんは半年前に岐阜からUターンしてきたばかりです。
出荷が始まる11月になると、朝7時から水揚げを開始します。3人が一艘の船に乗り、ポイントで停泊し底まで網を下し、車えびが十分に入ったタイミングを見計らって網を引き揚げます。網の銅枠に電気が流れているので、車えびは軽い失神状態になります。一気に大量のえびを捕獲すると身がつぶれてしまうので、1度に約40キロくらいまでと調整していきます。船を外から内へと何周かさせながら同じ作業を繰り返します。
えびは岸にあげられると、すぐに近くの生簀へ運ばれます。養殖場の水温より10℃程度低い生簀の中で、えびの動きは少し緩慢になります。水揚げ作業を終えた中村さん、大山さん、岩永さんは、生簀のえびの大きさや状態を1匹ずつ確認し、6つのグループに分けていきます。その間、傷のついているものや脱皮したばかりで柔かいものなどは取り除きます。
その後水の中で1〜2時間置き、さらにもう一段階冷たい水で車えびを落ち着かせると、ベテランの作業員・湯田登志美さんも加わり、出荷のための箱詰めが始まります。専用の箱の底に保冷剤を置き、その上に宮崎産のスギのおが粉をふんだんに敷き詰めたところへ、えびが2列×2段に並べられます。このとき室温は12℃程度、スギ粉も冷やされているので、えびは眠っているような状態になります。ハイシーズンになると人手は増員され、作業は驚くほどスピーディーに行われます。
えびの大きさにより、同じ1キロでも内容個数は異なりますが、大きいもので35匹、小さいもので50匹ほどが1箱に収まります。取材した日は合計36箱×1キロが出荷され、トラックで市場へと運ばれていきました。東京へも翌日の夕方以降には届くということです。
職員3人の仕事は午後にもあります。潜水服を着用し養殖場を掃除します。擂鉢状の養殖場の水は循環しており、時おり海底湧水も流し込むので滞らないようになっていますが、それでも水中の見通しはよくありません。秋〜冬は1日に4〜5回脱皮する個体もあるので、殻や残餌が海底に蓄積しないよう、手作業で掃除します。 そして全ての出荷が終わる2月末頃、養殖場の水は完全に抜かれ、春には年に1度の大掃除が行われます。ゴミや砂、壁についた貝などを一掃し、次の稚エビたちを迎える準備をします。そうすることで菌などが混入しないようにし、えびにとって清潔で安全な環境が整います。
作業を見せてくれた岩永知也さん(左)、中村竜綺さん(中)、大山和輝さん(右)
漁協ではまた、毎年地元の小学生たちとともに、海を美しく保つための課外学習に取り組んでいます。6月頃アマモの種をとり、半年間子どもたちがコップのなかで育成します。成長したアマモを11月頃に水溶性の紙粘土に埋め込み、それを浜に近い海の底に置いていくのです。放たれたアマモは水の中で光合成をし、酸素を発生させることで生態系をよくし、磯焼けなどから海を守る働きを生じさせます。
「有明海の豊かさを知り、故郷に誇りをもってもらいたいです。未来の海を守るという自覚の芽が育てば、こんなに嬉しいことはありません」と吉田組合長。
その海はまた、我々に大きな恵みをもたらしてくれるのです。
撮影=白井晴幸 取材=中島宏枝 取材協力=深江町漁業協同組合、長崎県漁業協同組合連合会 |
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