良い道具には当然理由がある
 今回のセレクションはウチらしい商品ですね。「手入れをしながら長く使ってもらう」ことが一番大事にしていることだから。使っていく上でどんどん馴染んで、いい道具に育っていくことを表しているっていうのかな。南部浅鍋は最たるもので、一般的に鉄は重い、サビやすいと言われますけれども、重さには、火の入り方、蓄熱性、保温性などの理由があるし、鉄は使えば使うほど油が馴染んで、くっつきにくく、サビにくい、いい道具に育っていくんですよね。銅も同じ。だからお客様には必ず「買って帰った今日より確実に使い込んだ半年後、ないしは1年後の方がいい道具に育っています」とお話しします。愛着もわいてきますしね。サビやすいという点も水気を残さない、洗剤は使わないというようなちょっとしたポイントを押さえてもらえれば、そんな神経質になることもないんですよ。あと、しまっておく時間が長いとサビるリスクは高くなるんです。浅鍋は本来は親父が30年前にデザインしてつくったすき焼き鍋なんですけど、すき焼き鍋って言っちゃうとすき焼きの時にしか使われない。そうするとしまっている時間が長くなって、使う時になってサビていることが多い。それならば、使う出番を増やせばいいんだということで、オーブンウェアとしてや鉄板として使っていただけるようなご提案としてレシピを付けています。
 あとウチで扱っている商品は極端に言うと、ほとんど百円ショップで揃っちゃうんです。でも値段の違いとか、長年廃れないで残っているものというのは当然理由があって、使ってみれば違いがわかるんですけど、パッと見では理解されない職人の技と努力がすごくあるんです。そういうことをきちっと伝えていくことも大切な役目だと思っています。また、売ったら売りっぱなしではなく、買ってもらった時からお客様とのお付き合いが始まるわけだから、末永く使っていただくためにも、自信を持ってオススメできる商品に必然的になってきているかと。
 とにかく道具は使ってみないと実感できないんですよ。僕たちが売っているのは美術工芸品ではなく生活の道具ですからね。どんどん使って自分のものにしてもらうということが僕たちにとってもうれしいし、そこから、縦や横につながって広めてもらえるとまたうれしいですね。
くまざわだいすけ◎1974年東京・浅草生まれ。アンティークショップ「パンダグリュエル」(東京・恵比寿)、家具・カフェ「オーガニックデザイン」(東京・中目黒)を経て、東京・合羽橋の家業である釜浅商店に1999年入社。2004年より4代目の店主に。2011年にリ・ブランディングを行う。2016年には2度目のパリでのエキシビジョンを開催。http://www.kama-asa.co.jp


撮影=三木麻奈
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