はやしのぞむ◎作家・書誌学者。「イギリスはおいしい」で日本エッセイストクラブ賞、「ケンブリッジ大学所蔵和漢古書総合目録」で国際交流奨励賞を受賞。エッセイ、小説、詩、能楽等、著書多数。最新刊「新味珍菜帖」。http://i.am/rymbow
 結局のところ、私は、魚食い民族日本人の典型であって、魚だったら毎日食べても飽きない。とは言え、下戸の私としては、たとえばフグ料理屋のように、つぎつぎと魚ばっかり食べさせられるというのは嬉しくない。魚を食べ、飯を食べ、野菜を食べ、汁を喫し、また飯を食べ、と飯を間に挟みながら、機能の違う食品をあれこれといっしょに食べてこそ、すべての味がバランスよく味わわれるのだと信じているのである。
 魚には、刺し身あり、焼き物あり、煮魚あり、干物あり、寿司ありと、じつに豊富な食べ方のノウハウがあるのも嬉しい。なかでも寿司はまた私の大好物で、三食寿司でも構わないというくらいであるが、これも飯とネタとのバランスが大切であって、いたずらに大きなネタを乗っけて喜んでいるなんてのは、風流を知らぬものである。私は程よく小さな枕に品良く小ぶりのネタがきっちりと乗っているというそういう寿司を愛する。また、マグロなんかでも、上等の赤身にこそ格別のうまさがあって、トロならば中トロくらいまでが望ましい。大トロとなると、私にはそのままでは脂が鬱陶しく、ちょっと炙ってから握ってもらうことにしている。江戸時代から伝統のヅケってのも風流である。
 しかし、トロは高い。これがいかにも問題だ。そこで私はつくづくと考えた。そして、安いお金でトロを「作る」妙法を案出したので、本日は特別にこれを御伝授申し上げることにしようかと思う。
 まず、尋常な赤身のマグロのサクを買ってくる。そうして、その身をスプーンの先でこそげ取るようにしてすっかり中落ち状態にしてしまう。しかる後に、それをば、ボウルに入れて、サラダ油を大サジ一杯ほど加え、擂り粉木か攪拌器でがーっと混ぜてしまうのだ。するとあら不思議や、さっきまで赤く透明だったものが忽ちねっとりと白濁りしてあたかもトロのようになってくる。そして味も、おっとびっくりトロに近いものができる。おそらく舌の鈍い人には区別が付かないだろう。あとはネギトロ巻にでもして食べるがよい。
 これすなわち「リンボウ式植物性健康トロ」、来客のときなどに、ちょっといたずらしてみては如何か。

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