10年ほど前、日本に住んでいるニュージーランド人の友達の影響で、環境保全や動物愛護、そして健康面でもメリットが多いとされる「ヴィーガン」の食生活に興味を持った。
まずは魚や肉を食べず、卵やチーズだけを摂るベジタリアンから始め、次第に乳製品や蜂蜜もやめて完全なヴィーガンへとシフトした。それまで肉中心の生活を送っていた私にとっては、大きな変化だった。最初はなんとなく物足りなくて、それを如何に満足のある食事にさせるか、料理が日々クリエイティブになりヴィーガン料理を作るのが楽しみになっていた。しかしその日は当然来た。
肉が無性に食べたくなってしまった。その本能的な欲求は今思えば、知識不足で栄養が足りていなかったのかもしれない。
それでも、いきなり肉を食べるのは抵抗があったので、まずは卵や乳製品を摂る生活に戻し、次に、自分で捌けるものならOKという独自のルールを設けることにした。スーパーの鮮魚コーナーで見つけた一尾丸ごとの鯵。肉は難しくても、これなら自分でも捌けそうだ。
実は、一人暮らしを始めてから調理が難しそうで魚を買うことはほとんどなく、魚を捌くのは初挑戦だった。YouTubeやレシピ本を見ながら見様見真似で三枚おろしにしたところ、身がボロボロになってしまった。それでも初めて自分で捌いた鯵。塩焼きにして食べてみると、驚くほど美味しかった。鯵ってこんなに美味しかったっけ! と、久しぶりの魚ということもあり、その美味しさに高揚した。何より、自分で捌いて食べることで、食のありがたみもより強く感じた。
そこから1ヶ月、ほぼ毎日鯵を買っては捌き、ついには出刃包丁まで購入し三枚おろしはお手のものになった。アクアパッツァに香草パン粉焼き、なめろうなど、ヴィーガン生活から一変、鯵一色の生活になった。一度ハマるととことんという性格は難儀なものだ。今は肉より魚、さらには殻を剥くことにハマってしまって海老ばかり食べている。私の食への探究は尽きなさそうだ。それにしてもヴィーガン生活を始めるきっかけはどこへやら…。