だって東京来るまでは、鍋と言ったら魚かカシワ(とり肉)の水炊き。魚入れるのにだしなんか要らんでしょうの世界。魚の薄味だけあれば幸せだったのだ。今もそうか。でも鍋セットなんか買うと、だし付いてたりするよね。東京の人は濃い味が好きだよなあ。
 わたしんちは子どもが四人もいるので、鍋が一つのときは薄味。辛いもの食べたい時なんかは子ども鍋と大人鍋と両方作る。水煮のうちに取り分けて味付けを変えて二つ。で、欠かせないのがエビとこんにゃく、それからタコとイカ。子どもって歯ごたえのあるものが好きだ、誰だよハンバーグやミートボールばっか食べるなんて言ったのは。餅なんかは好きだけどね。

 鍋だと楽。材料を切って出せば夫がやってくれる。さらに私が仕事の時は夫が全部やってくれる。それは鍋とは関係ないか。人はどうだか知らないが、私は料理やんない男と暮らすなんてことはとても出来ない。夫のことを最初にいいな〜と思ったのは、料理のサーヴが上手だったからだし、その後話しをするたびに、料理好きなのは確認済み。
 一番嫌いなのが「口だけ鍋奉行男」ね。「うるせえ、お前がやれ」だよ。そんなやつに限って「とうふまだ早いですよ」って言うと「俺はとうふはしっかり味ついてんのが好きなの」とか言う。スが入るってんだよ!ああ、そんな男じゃなくてユーヤと結婚してよかった。って何の話をしてんだか。

内田春菊◎長崎県生まれ。1984年、4コマ漫画で漫画家デビュー。代表作に「南君の恋人」「水物語」「目を閉じて抱いて」等。小説に「ファザ−ファッカ−」(直木賞候補)、「キオミ」 (芥川賞候補)、「犬の方が嫉妬深い」等がある。「私達は繁殖している」と「ファザーファッカー」で、第4回Bunkamuraドゥマゴ文学賞を受賞。また、エッセイ集に「基礎体温日記」「愛だからいいのよ」等がある。

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