鮎は日本の淡水魚を代表する魚といっていい。この魚の美味はもちろんのこと、その人気は、よく日本画に描かれたり、詩歌にうたわれていることでもわかる。
 鮎の寿命はわずか一年であり、そのため「年魚」などとも呼ばれている。俳句では夏の季語である。

水原秋櫻子の句だ。
 鮎には、「姿造り」、「背ごし造り」、「塩焼き」、「照り焼き」、「あめだき」など、さまざまな料理法があるが、ぼくが一番好きなのは「塩焼き」だ。骨を抜き、塩を吹いている鮎の頭からちぎるのはたまらない。御飯のおかずというよりは酒の肴としての方が合っている。
 ねっとりとしたぬる燗の酒に鮎の塩焼き、これはもう普通ではなく、御馳走である。
 鮎料理で忘れてはならないのが、内臓を塩辛にした苦うるかだ。日本人というのはどうしてこんな見事な料理を考えつくのか。鮎をほんとうに好きなのだろう。鮎は芸術だ。

安西水丸◎イラストレーター、作家。1942年生まれ、日大芸術学部美術学科卒。電通、ADAC(NY)、平凡社を経てフリーに。著書に「4番目の美学」「メロンが食べたい」等多数。村上春樹との共著も多い。4月、NHKのBS「世界わが心の旅」でフォークアートを訪ね、アメリカの南部を旅して歩く。

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