北海道最東端、根室半島の突端にある根室市歯舞は、オホーツク海と太平洋の潮流が交差することから資源豊かな漁場として、人口の大半が漁業に従事する漁師町です。季節に応じて多種多様な魚介類が漁獲されていますが、キンキは一年を通して水揚げされる魚です。地元では「メンメ」の名で親しまれ、地域によっては「キチジ」、「キンキン」などの呼び名もあります。歯舞のキンキは、どのようにして私たちの食卓に届くのでしょうか。  

海の向こうは北方領土

  たんちょう釧路空港から東へ車を走らせること約3時間。湿原が次第に牧草地へと変わると、まもなく根室に到着します。根室市は有数の野鳥生息地で、国内で観察可能な野鳥の3分の2にあたる約370種が確認されているという野鳥の楽園でもあります。その野鳥たちの胃袋を満たしているのが、他でもなく海に生息する豊かな生きものたちの存在です。
 今回取材した歯舞漁港は、根室市の中心地よりさらに車で東へ30分程、納沙布岬の方向へ進んだあたりにあります。岬の向こうは歯舞群島、色丹島と続く北方領土です。
 現在、歯舞漁協の組合員は409人、そのうち約8割が昆布漁に従事しています。昆布漁以外には、刺し網漁、秋鮭の定置網漁、サンマの棒受け網漁など、季節によって様々な魚種の水揚げがあります。

海から与えられる贈り物

 太平洋とオホーツク海の潮流が交わる独自の地理的条件と、寒冷でありながら流氷が滅多に来ないことから、歯舞漁港では豊富な魚介が水揚げされます。タラ、カレイ、サケ、コマイ、ホッケ、サンマ、カニ(毛ガニ、花咲ガニ)、ウニなど、季節ごとの魚は海から土地の人々への贈り物です。
 都市部などでは高級魚とされ、なかなか食卓に上がる機会の少ないキンキは、東北地域以北の水深200〜1200mあたりの岩礁域に生息するカサゴ科の深海魚です。深浅移動をしながら、イカ、エビ、ゴカイなどを捕食します。
 大きな目と口、真っ赤な魚体から、キンメダイと混同されることもありますが、全く別の白身魚です。正式な名称はキチジ(喜知次、吉次など)。東京ではキンキの名で通っていますが、歯舞を含む道東地域ではメンメと呼ばれます。その由来は諸説ありますが、赤くて「めんこい(可愛い)」からという人もいるそうです。

船上で箱詰めまでを行う

 歯舞漁協では、刺し網漁により年間96t〜120tのキンキが漁獲されています。刺し網漁は、上に浮き、下におもりをつけた帯状の網を垂直に仕掛け、泳いできた魚を絡めて獲る漁法です。網を置く場所はその時々で異なり、水深200m〜1q。仕掛けは中一日置き、翌々日に揚網機で船上に引き上げます。漁と水揚げの日は、15隻の船が一斉に海へ出ていきます。
 「キンキに限っては、サイズ分けから箱詰めまでをすべて船上で行うんです。氷を敷き詰めた発泡スチロールに、氷焼け防止の専用のシートを敷き、1箱あたり6〜8sになるよう特大、大、中サイズに仕分けます。さらに箱を保冷バッグに収めて鮮度を保つんです」と船団長の寺島勲さん。港で荷下された箱は倉庫に移され、翌朝の競りに出されます。極力人の手に触れることのないよう、競りの直前に計量するという徹底ぶり。その日のうちに市場やお店へ運ばれます。



陸に下ろされたキンキのケースはまとめて市場内に運ばれる




船からコンベアーを使ってキンキの荷を下ろす寺島船団長ら

味と栄養を備えた優等生

 「腹が太く、ほどよい脂が乗った歯舞のキンキは道内でも有数の品質だと思います」と語るのは、組合理事の高澤豊さん。「コロナによって様々な障害が生じたとしても、良質な食材の供給をストップしてはならないですし、それが一次産業に携わる者の使命です」と続けました。
 冬場は特に脂乗りの良いキンキ。柔らかい肉質と小骨が少ないことから、子どもや高齢者にも食べやすく、色々な料理に活用できます。DHAやEPA、ビタミンEも豊富な優等生。
 「毎年5月に行なう地元の魚祭りでもキンキは大人気で、売れるのが早いですよ。汁物や一夜干しなどを食べていると、しみじみと旨いなと感じることが多いです」と言うのは市場部長の滝本進之介さん。
 天然の脂の甘さと美味しさ、北海の恵みが凝縮された歯舞のキンキは、こうして私たちの食卓へと届けられるのです。


キンキは「特大、大、中」など大きさごとに箱分けされて出荷される

お話を伺った寺島勲さん(左)、高澤豊さん(中)、滝本進之介さん(右)

歯舞漁協直売所

 歯舞漁港にある歯舞漁協直売所では昆布や昆布の加工品を直売している。歯舞で水揚げされる昆布は、主になが昆布、あつば昆布、猫足昆布と呼ばれるもので、ビタミン、ミネラル、ヨードをたっぷり含む。歯舞産天然一等昆布を使用した「はぼまい昆布しょうゆ」や「はぼまい根昆布つゆ」はリピーターも多い人気の品。


北海道根室市歯舞4-120
TEL.0153-28-3161/平日9時-17時/土曜日9時-12時
*日曜・祝祭日は休み

撮影=行竹亮太 取材=中島宏枝
取材協力=歯舞漁業協同組合、北海道ぎょれん

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